甘酒は、日本の伝統的な甘味飲料であり、その豊かな歴史と健康効果への関心の高まりから、近年再び注目を集めています。
米麹と酒粕という二つの主要な原料から作られる甘酒は、それぞれ異なる特徴を持ち、日本の食文化において独自の地位を築いています。
今回は、甘酒の定義、種類、製造方法、栄養価、健康効果、歴史的背景、文化的意義、飲用方法、料理への活用、最新の研究動向、そして現在のトレンドについて考察したいと思います。
また、福岡と東京神田という地域における甘酒の特色についても掘り下げていきたいと思います。
甘酒:日本の伝統と健康を支える甘味飲料

甘酒とは
甘酒は、米を発酵させて作る甘い飲み物です。
名前には「酒」という文字が含まれていますが、主な種類の一つである米麹甘酒はアルコールを含まないため、幅広い年齢層の方が安心して飲むことができます。
外観は白濁しており、米の粒が残っていることも多く、その様子は未精製の日本酒であるどぶろくに似ていると表現されることもあります。
歴史的には「一夜酒(ひとよざけ)」とも呼ばれ、比較的短時間で製造できることが示唆されています。
また、「醴酒(こざけ、こざけ)」という別名もあり、これはかつて「濃い酒」や「甘い酒」を意味していました。これらの古い呼び名は、甘酒が古くからその甘さと濃厚さで親しまれてきたことを物語っています。

甘酒の二つの主な種類
甘酒は、主に米麹甘酒と酒粕甘酒の二つのタイプに分けられます。
これらのタイプは、原料と製造方法が大きく異なり、それぞれ独自の風味と栄養価を持っています。
- A. 米麹甘酒 (Kome Koji Amazake – Rice Malt Amazake)
- 原材料: 米麹甘酒は、主に米(通常は蒸米)、米麹(米に麹菌 Aspergillus oryzae を繁殖させたもの)、そして水から作られます。
米を使わず、米麹と水のみを原料とする「全麹甘酒(ぜんこうじあまざけ)」と呼ばれる種類もあり、こちらはより甘く濃厚で、麹の風味が強く、栄養価も高いとされています。 - 製造方法: 米麹には、主にアミラーゼという酵素が含まれており、これが米(または米麹自身)のデンプンをブドウ糖などの糖に分解します。この酵素による糖化と呼ばれるプロセスによって、自然な甘さが生まれます。
製造の際には、50〜60℃(特に55〜60℃という範囲が多く見られます)程度の温度を数時間(一般的に6〜10時間、場合によっては一晩)保つことで、酵素が効率よく働き、糖化が進められます。
米、米麹、水の配合比率は、最終的な甘さや粘度によって調整されます。 - 特徴: 米麹甘酒の最大の特徴は、アルコールを全く含まないこと(アルコール度数0%)と、砂糖などの甘味料を添加せずに、米由来の自然な甘さを持つことです。
口当たりはややとろみがあり、米の粒が感じられるものから、より滑らかなものまで様々です。
自然な甘さと米本来の風味が特徴です。
- 原材料: 米麹甘酒は、主に米(通常は蒸米)、米麹(米に麹菌 Aspergillus oryzae を繁殖させたもの)、そして水から作られます。
- B. 酒粕甘酒 (Sake Kasu Amazake – Sake Lees Amazake)
- 原材料: 酒粕甘酒は、日本酒を製造する際にできる酒粕を主な原料とし、これに水と砂糖などの甘味料を加えて作られます。
甘さを調整するために、米麹由来の甘酒、蜂蜜、メープルシロップなどが用いられることもあります。
また、風味付けとして塩や生姜(しょうが)が加えられることもあります。 - 製造方法: 日本酒の搾りかすである酒粕を水に溶かし、砂糖などの甘味料を加えます。
酒粕を溶かしやすくするため、またアルコール分をある程度飛ばすために、加熱されることが多いです。
酒粕と水の割合や甘味料の量は、好みに応じて調整されます。 - 特徴: 酒粕甘酒は、酒粕に由来する微量のアルコール(一般的に1%未満ですが、酒粕の種類や製法によって異なります)を含んでいることが特徴です。
日本酒特有の芳醇な香りと風味が感じられ、米麹甘酒に比べて滑らかで、とろみがあることが多いです。
甘さは、加えられた砂糖などの甘味料に由来します。
- 原材料: 酒粕甘酒は、日本酒を製造する際にできる酒粕を主な原料とし、これに水と砂糖などの甘味料を加えて作られます。
米麹甘酒と酒粕甘酒の比較表

栄養価と健康効果

歴史を辿る:甘酒の起源と進化

甘酒の歴史は古く、古墳時代にまで遡ります。
『日本書紀』(720年完成)には、神への供物である甘酒の原型と考えられる「天甜酒(あまのたむざけ)」に関する記述があります。
平安時代(794-1185年)には、貴族の間で夏に冷やした甘酒が好んで飲まれていました。
江戸時代(1603-1868年)になると、甘酒は庶民の間にも広く普及し、栄養豊富な飲み物として、特に夏場の疲労回復のために甘酒売りによって盛んに販売されました。
その栄養価の高さから、江戸幕府は甘酒の価格を統制し、広く庶民に親しまれるようになりました。
俳句の世界では夏の季語となっており、歴史的に夏に飲まれる飲み物であったことがわかります。
近代以降、甘酒は一年を通して飲まれるようになり、特に酒粕甘酒は冬の飲み物としてのイメージが強くなりましたが、近年では米麹甘酒の健康効果が再評価され、再び注目を集めています。
第二次世界大戦中には、砂糖の代替品として米麹甘酒が推奨されたこともありました。
文化的意義と伝統
甘酒は、日本の様々な祭り(祭り)や神社の祭事(神事)において重要な役割を果たしてきました。
特に、新年の初詣(初詣)の際に、一部の神社では参拝者に温かい甘酒が振る舞われる習慣があります。地域によっては、甘酒が祭りの中心的な役割を果たす例も見られます。
例えば、三重県の下久具で行われる御頭神事は、別名甘酒神事とも呼ばれ、各家庭から集められた米で仕込んだ甘酒が奉納されます。埼玉県狭山市の梅宮神社で行われる甘酒祭りも有名で、2月に行われ、多くの参拝者で賑わいます。
このように、甘酒は単なる飲み物としてだけでなく、日本の文化や信仰と深く結びついてきたのです。
また、前述の通り、俳句では夏の季語であり、かつては夏の風物詩であったことが偲ばれます。
ひな祭り(ひな祭り)に甘酒が供される地域もあります。
甘酒の楽しみ方:飲み方と消費方法

甘酒は、季節や好みに合わせて温かくても冷たくても美味しくいただけます。特に冬には温めて飲むことで体が温まり心地よいです。
冷やした甘酒は、夏場の栄養補給やリフレッシュに最適です。
温かい甘酒には、すりおろした生姜(しょうが)を加えるのが一般的で、風味が増し、体をさらに温める効果も期待できます。
その他にも、牛乳や豆乳で割ってクリーミーにしたり、炭酸水で割ってさっぱりと飲んだり、ココアやきな粉、蜂蜜、レモン汁などを加えて風味を変化させたりするのも人気です。フルーツやヨーグルトと一緒にスムージーにするのも、健康的で美味しい飲み方です。
甘酒には、そのまま飲めるストレートタイプと、水や牛乳などで割って飲む濃縮タイプがあります。濃縮タイプは料理にも使いやすいという利点があります。
甘酒は栄養豊富ですが、糖分も含まれているため、1日の摂取量は100〜200ml程度を目安に、適量を守ることが推奨されています。飲むタイミングとしては、朝に飲むとエネルギー補給や代謝促進に、昼間に飲むと集中力アップに、夜に飲むとリラックス効果や安眠効果が期待できると言われています。


甘酒の料理への活用:レシピのアイデア
甘酒は、飲むだけでなく、料理の調味料としても幅広く活用できます。
特に米麹甘酒は、その自然な甘さを活かして砂糖の代わりに様々な料理やお菓子作りに利用できます。
ホットケーキやマフィンなどの焼き菓子に加えると、しっとりとした食感と優しい甘さが加わります。
また、肉や魚の marinade(マリネ)、豚汁(とんじる)や味噌汁(みそしる)などの汁物、煮込み料理、ドレッシングなど、様々な料理に旨味やコク、自然な甘さを加えることができます。
以下は、甘酒を使ったレシピのアイデアです。

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最新の研究と科学的知見
甘酒の健康効果

近年、甘酒の健康効果に関する研究が盛んに行われています。その結果、様々な効果が示唆されています。
腸内環境の改善と免疫力向上
米麹甘酒と酒粕甘酒のどちらも、腸内の善玉菌の増殖を促進し、腸内環境を整える効果が期待されています。特に米麹甘酒は、ビフィズス菌などの善玉菌を増やすオリゴ糖を含み、腸のバリア機能を高める可能性も示唆されています。
美肌効果
米麹甘酒に含まれる麹酸やビタミンB群は、肌のターンオーバーを促進し、メラニン生成を抑制する働きがあるため、美白効果や肌の弾力性向上、毛穴のたるみ抑制などが期待されています。
疲労回復とエネルギー補給
米麹甘酒に豊富なブドウ糖やビタミンB群は、疲労回復を助け、素早くエネルギーを補給する効果があります。運動後の疲労軽減にも効果が期待されています。
コレステロール値と脂質代謝の改善

甘酒、特に酒粕を含むものは、コレステロール値や中性脂肪値の低下に役立つ可能性が研究で示唆されています。
血圧調整
酒粕に含まれるペプチドなどの成分には、血圧を下げる効果が期待されています。
抗酸化作用と抗炎症作用
麹酸、フェルラ酸、エルゴチオネインなどの成分は、抗酸化作用を持ち、細胞の老化を防ぐ効果や、炎症を抑える効果が期待されています。
体重管理

米麹甘酒に含まれるブドウ糖は満腹感を与えやすく、食欲を抑えることで体重管理をサポートする可能性があります。酒粕甘酒も、食物繊維やレジスタントプロテインによって同様の効果が期待されます。
近年では、これらの研究成果に基づき、甘酒が機能性表示食品として販売される例も増えてきています。
現在のトレンドと市場動向

健康志向の高まりや発酵食品への関心から、甘酒、特に米麹甘酒の人気が再燃しています。
現在では、玄米や黒米を使ったもの、果物を加えたフレーバー付きのものなど、多様な種類の甘酒が市場に出回っています。
また、砂糖の代替として料理やお菓子作りに甘酒を利用する傾向も強まっています。若い世代や海外からの関心も高まっており、より手軽に飲めるパウチタイプやカップ入りの商品も登場しています 。
味噌メーカーと酒造メーカーが製造する甘酒には、原料や製法によって風味に違いが見られることも注目されています。
地域ごとの特色:福岡と東京神田の甘酒
福岡 トレンド

福岡県は、全国的に有名な国菊あまざけ(くにぎくあまざけ)の発祥地として知られています。
株式会社篠崎(しのざき)が製造するこの甘酒は、高品質な米と伝統的な製法にこだわっており、通常の甘酒の他に黒米甘酒など、様々な種類があります。
また、浦野醤油醸造元(うらのしょうゆじょうぞうもと)の「にじいろ甘酒」は、博多あまおうなどの福岡県産のフルーツを使った彩り豊かな甘酒として人気を集めています。
若竹屋酒造場(わかたけやしゅぞうじょう)は、糸島産の米を使った「甘いささやき」という甘酒を製造しており、地元産の原料にこだわった製品作りを行っています。
福岡市内では、甘酒を使ったラッシーやパンなど、ユニークな商品を提供するカフェや店舗も増えています。
満る弥(みつるや)の甘酒は、福岡市内の複数の店舗で購入することができます。
福岡県は、多様な甘酒が生産され、地元で親しまれている地域と言えるでしょう。


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東京神田 トレンド

東京都千代田区の神田明神の近くにある天野屋(あまのや)は、1846年(弘化3年)創業の老舗の甘酒屋です。
天野屋の明神甘酒(みょうじんあまざけ)は、地下6メートルの天然の麹室(こうじむろ)で自家製米麹を使って作られる伝統的な製法が特徴です。
米と麹のみを原料とし、添加物や砂糖を一切使用しない自然な甘さが魅力です。店内には喫茶部もあり、甘酒と共に伝統的な甘味や軽食を楽しむことができます。
神田明神を訪れた際には、天野屋の甘酒はぜひ味わっておきたい一品として知られています。
また、甘酒の他にも、地下の麹室で作られた味噌や納豆などの発酵食品も販売されています。
天野屋は、神田という土地で長きにわたり伝統の味を守り続けている、甘酒文化を語る上で欠かせない存在です。

まとめ
甘酒は、日本の伝統的な甘味飲料でありながら、現代においてもその健康効果が注目され、幅広い世代に親しまれています。
米麹甘酒と酒粕甘酒という二つの主要な種類は、それぞれ異なる特徴を持ち、栄養価や風味、適した用途も異なります。
古代から日本の文化に深く根ざし、祭りや伝統行事にも関わってきた甘酒は、その歴史的背景と文化的意義においても重要な存在です。
近年では、科学的な研究によってその健康効果が裏付けられつつあり、様々な商品開発や新たな飲用方法も生まれています。
福岡や神田といった地域には、独自の特色を持つ甘酒が存在し、その多様性は日本の甘酒文化の豊かさを物語っています。
甘酒は、日本の伝統と健康を支える、これからも長く愛され続ける甘味飲料と言えるでしょう。
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